ファイル共有ソフトで前科者になった

shareで漫画をアップして摘発され前科者になったので、体験したことを書いてく

ファイル共有ソフトで前科者になった -その12- 〈妻に伝えるか〉

帰宅してから、妻に摘発されたと伝えるべきか迷う。
今すぐ妻に伝えても妻にできることは無いし、楽しい旅行の邪魔をするだけなので、帰宅してから伝えようと決める。
妻に電話をかけ、スマホのLINEが使えなくなったので、これからのメッセージは携帯電話のCメールかEメールに送ってほしいと伝える。
妻から旅の様子を知らせる楽しそうなメールが定期的に届くが、俺はそれどころではなく、上の空で返事を書く。

妻がこのことを知ったら、どう思うだろう?
犯罪者の夫なんか嫌だ、愛想がつきたと、離婚を持ち出されるだろうか?
両親も子が犯罪者になってしまったと悲しむだろうか。

夜になっても食欲が湧かず、簡単にパンだけ食べて済ませる。
夜ベッドに入って横になっても、先の不安からなかなか寝られない。

翌日出勤したが、頭の中はこれからの成り行きへの不安がいっぱいで、仕事に集中できない。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その11- 〈警察での取調べ1回目-4〉

次回の取調べは1週間後となった。平日の午後イチで半日年休を取ることになる。
俺の勤務状況を確認したいとのことで、出退勤記録簿と有給休暇簿のコピーを持ってくるよう言われる。
(後からネットで調べると、会社に家宅捜索をかけて押収することも可能なようで、そうなれば会社に多大な迷惑をかけることになるので、任意で提出依頼してくれてありがたい。)
年配刑事と若手刑事の二人は××署の所属ではなく県警本部の所属で、俺の捜査のためにここまで来てるようだ。

帰りは署の裏口まで若手刑事が案内してくれた。
別れ際に「堀内さん、そのカバンは何を持ってきたんですか?」と聞かれ、「逮捕勾留に備えて着替えを持ってきました。」と答えると、苦笑いしながら
「堀内さんは素直に認めているし真面目に出頭して答えてくれているので、逮捕するつもりはありませんから、次から持ってこなくても大丈夫ですよ。」と言う。

でも、いつ状況が変わるかもしれないし、他の事件では取調中に刑事から言われた事を反故にされたという事例をいくつもネットで見ているので、俺の心中から逮捕に対する恐怖は全く無くならないのだった。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その10- 〈警察での取調べ1回目-3

年配刑事からの聴取中、若手刑事は箱から押収したパソコンを取り出し、警察のモニターにつないで内容を確認している。

俺のパソコンには
①OS、アプリ本体
②自分で撮影した動画や写真
③shareキャッシュフォルダ&ダウンロードフォルダ
④shareでダウンロードしたマンガファイル(共有フォルダに設定)
⑤テレビチューナーで録画したTSファイルの保存
の5つの物理HDDが入っており、このうち③④⑤は4TB HDD。

それを確認した若手刑事
「堀内さんのパソコン自体を解析するのではなく、HDDをコピーしてクローンHDDを作ってそれを解析しますが、今県警には4TBのHDDがないのでクローンが作れません。手配するので、届くまでまた封印します。」とのこと。
箱にパソコンを戻し、ガムテープで閉めてシールを貼り、日付と名前を書いて封印の指印を押した。封印を指差したポーズで写真を撮られる。

スマホのロック解除方法を聞かれたので説明すると、技術担当らしい捜査員がUSBで機械に繋いでデータを吸い出そうと試みるが、国産ではなくシャオミ(中国製)のredmi noteでOSもシャオミ製のカスタムandroid(MIUI)なので上手くいかないようだ。

携帯電話は普通のAUガラケーなのでデータ吸出し作業はすぐに終わり、電話がないと困るだろうということで、その場で返却(還付)されることになった。受取証(還付請書)に指印を押す。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その9- 〈警察での取調べ1回目-2〉

家宅捜索のときに容疑内容(shareの稼働と共有フォルダ設定)を裏付ける証拠を完璧に確認され、俺も素直に認めてたせいだろう、刑事ドラマのように怒鳴り声で「お前がやったんだろう!」と机を叩いて怒鳴ることはなく、年配刑事は落ち着いた声で淡々と話していく。
最初に「言いたく無いことは言わなくてもいいからね」と言われ「ああ、黙秘権の告知か」と思うが、それは極めて形式的な儀式に過ぎなかった。
その後、質問に対しては有無を言わさず答えなければいけない雰囲気だった。(否認してないので事実と反することを無理矢理同意させられることはなかったが)

細かい聴取内容の一字一句は覚えて無いが、
刑「あなたに対して、青色天使(仮名)というマンガの1巻、2巻、3巻のデータをshareを使ってアップロード可能な状態にしていたことで著作権法違反で調べています。間違いないね?」
俺「はい、間違いありません」
刑「反省している?」
俺「とても反省しています」
といった一問一答の形で進んでいき、30分ほどの簡単な認否の確認で終わった。

最後に年配刑事が内容を一本指でカタ、カタとノートパソコンにゆっくり打ち込んでいく。
一枚紙にまとまった調書は「自分の言いたくないことまで、無理に話をしなくてもいいことは、説明を受けよくわかりました。私は○○したことに間違い有りません。私は~・・・」といった一人称での陳述となっていた。(初回のこれは弁解録取書というらしい)
いくつか誤字があったので指摘して打ち直しとなり、内容に異議はないので指印を押した。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その8- 〈警察での取調べ1回目-1〉

警察署に向かう前に、逮捕に備えて荷造りする。
小さな手提げバッグに、着替え(パンツ、靴下、長袖シャツ、ももひき)、歯ブラシ、電動ひげ剃り、ボールペンと大学ノート(取調記録ノートとして使う)を入れて、留置場生活に備える。
留置場では自殺防止のためヒモ・ボタン・ファスナー・フード付きの服は持ち込めないようなので、防寒着としてハイネックフリースとスウェットパンツを着る。その上にコートとオーバーパンツ(これはボタンとファスナーが付いてるので持込不可)を着ていく。

刑事事件の流れとか、逮捕され留置所に入れられる前に何を用意したらいいかとか、ネットがなければ有識者に相談しなければ得られなかった知識で、ありがたいことだ。

旅行から帰宅した妻が俺がいなくて心配するだろうから、机の上に妻あての手紙を置いておく。
これを読んだ妻の気持ちを想像すると気が重くなるが、仕方ない。
経緯を書いて、謝って、君が別れたいなら応じるけど俺は一緒にいたい、と書いた。
(逮捕勾留されたらすぐ弁護士に電話して接見に来てもらい、両親に伝えてもらい、両親から妻にも伝えてもらうつもりだが、念のため。)

1時半に家を出て、1時50分に××警察署に着。署の横にある駐輪場に停めたら朝の若手刑事がいて(タバコ吸ってた?)、二人で裏口から入る。
2階の廊下に頑丈な窓無し金属扉があり、横にある暗証番号ロックを若手刑事が押し(俺に見えないように体で隠していた)中に入ると、短い廊下の両側に2つずつの取調室(使われていなかった)、俺はつきあたりの大きな取調室に誘導された。中で年配刑事が机の前に座っていた。
刑事ドラマで見るような殺風景なコンクリート壁にボロ机ではなく、白い内装で明るい雰囲気で、外に面した窓に目隠しのプラ板と格子があるのを除けば、小さめの事務室のようだ。

年配刑事から机の向かい側に座るよう言われ、座る。
若手刑事は離れた机に座る。
座っているので直立不動ではないが、緊張で体がこわばる。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その7- 〈家宅捜索後3・弁護人探し〉

国選弁護人は起訴後しか認められないので遅すぎるし、ある程度の収入がある俺に国費負担は認められず私費負担になるだろう。
留置所には法律事務所のリストが備え付けられており、逮捕されてから看守に頼んで弁護士に来てもらい依頼することは可能なようだが、知り合いの弁護士はいないし、どの事務所がいいのか知らない。
当番弁護士という制度があり、法テラスを介して逮捕後に相談に乗ってもらうことは可能なようだが、順番での割り当てなので自分に合う弁護士とは限らない。
なら、逮捕される前に何人かの弁護士と法律相談の形で会って、この人がいいという弁護士に依頼したほうがいい。

県内の法律事務所のサイトを見て回るが、田舎県なもので「著作権法に強い」「インターネット事件に強い」とアピールしている所は見つからず、刑事事件の経験がありそうな法律事務所をいくつかピックアップして電話番号を紙にメモする。
(インターネットとは何か、ファイル共有ソフトとは何かから説明するのは大変そうなので、高齢の弁護士でなく40代以下の中堅若手の弁護士がいるところを選んだ。)
(広告やテレビCMで有名な全国に支店のある弁護士法人は過払い金メインで、刑事事件は片手間にされそうなので最初から除外した。)

携帯電話を押収されてしまったので、数年ぶりに公衆電話を使う。10円玉がどんどん呑まれていく。
手早く状況を説明したあと、法律相談という形でまず話をしたいとお願いし、3ヶ所で予約を入れた。弁護士は「家宅捜索時に逮捕されなかったのならしばらくは大丈夫でしょう。」ということで、どこも数日後の予約となった。
しかしやはり午後の出頭で逮捕されるかもという心配はあり、最も近場の弁護士に「逮捕されたら留置所から選任するので接見に来てもらえないか」と了解をとっておいた。

公衆電話から家に帰るまで、すれ違う街を歩いてる人たちはみな「市民」であり、俺もこれまではそうだったのが、
今や俺は「容疑者」となり「犯罪者」でありいずれ「前科者」となるわけで、それで俺はもう周りにいるどの人よりも格下で愚かで価値の低い存在であり、みっともなく情けない気持ちになった。

そういえば朝ご飯を食べてない。
食べる前に家宅捜索が始まって、それからネットで情報収集して弁護士事務所の予約をして、もう昼だ。
食欲は全く無いが、午後の取調べがいつまで続くかわからず、水分とエネルギー補給をしなければと思い、パンを口に押し込んだ。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その6- 〈家宅捜索後2 ・逮捕の恐れ〉

いろんな刑事事件のページを見ると、「最初は逮捕せず在宅捜査で進め、容疑が固まり次第、任意出頭後に警察署内で逮捕状を執行」という事例も多い。
ACCSの資料でも、家宅捜索日と逮捕日が異なってる事件がいくつかある。

法律では逮捕の要件として、容疑者に「証拠隠滅の恐れ」「逃亡の恐れ」がある場合に限定されているが、その「恐れ」に根拠は必要なくて「警察がそう思った」程度のものでよく、警察から逮捕令状を請求された簡易裁判所は実質審査無しでほぼ確実に逮捕状を出すようだ。
俺はサラリーマンで家庭もあるので客観的に見て「逃亡の恐れ」は低いし(無職・独身だと「守るべきものがない」ということで「相対的に逃亡の恐れが高い」と判断されるようだ)、
証拠物のパソコンを押収されているので「証拠隠滅の恐れ」は皆無で、
家宅捜索のときに容疑事実を認めており否認事件ではないからその場で逮捕はされなかったのだろう。
(警察は「容疑を否認している=証拠隠滅の恐れ有り」と考えており、否認すると途端に逮捕される可能性がグッと高くなるようで、弁護士会や人権団体からは「自白を得るための人質司法」と批判されているようだ)

最近、警察が逮捕の必要無しと判断して在宅捜査で進めてたのに、警察からの呼び出しをブッチして逮捕されたという報道もあった。

ドローン無許可飛行の疑いで男逮捕
警察は任意で調べを進めてきましたが、ことしの1月末以降、呼び出しに応じなくなったため3日、逮捕しました。

(そんな悪質な行為ではないので、律儀に出頭に応じてたら逮捕されなかっただろうに・・・)
俺は出頭には真面目に応じるつもりだが、それでも他の事例を見てると、いずれ逮捕される可能性は非常に高いと思う。

逮捕されて留置所に入れられれば、外部と連絡が取れなくなる。(手紙は検閲のうえ許されるようだが、時間がかかりすぎて有用ではない。)
となると、被害者(出版社と作者)への謝罪・示談交渉は不可能になる。妻や両親との面会には時間・回数に制限がつく。
自分の選任した弁護士であれば面会に制限はなく、弁護士が来ればどんな時間に何度でも面会できる。勾留への準抗告や保釈請求も弁護士でないとできない。
逮捕後の連絡手段の確保として、弁護人の選任は必須だと判断した。