ファイル共有ソフトで前科者になった

shareで漫画をアップして摘発され前科者になったので、体験したことを書いてく

ファイル共有ソフトで前科者になった -その30- 〈最後に〉

俺の家宅捜索(摘発)から判決・会社処分までの1年間を長々と書きました。
加害者として、犯罪者として、忘れることは許されず、自分が二度とこのような事を繰り返さないのは当たり前として、
自分の体験を皆に見てもらうことで「犯罪はワリに合わない」のを知ってもらい、一人でも違法ファイル共有をやめてもらえばと願います。

「ユーザーはたくさんいる、俺は摘発されないよ」とタカをくくってる人、いつか当たるぞ!
家族に心配と迷惑をかけるぞ。容疑者になれば精神的にも物理的にも苦労するぞ。逮捕されたら何十日間も留置所に閉じ込められるぞ。前科者になって自分の将来に響くぞ。手に入れたファイルの価値以上のお金が飛んでいくぞ。
なんもいいことないぞ、やめとけ!

ファイル共有ソフトで前科者になった -その29- 〈民事〉

損害賠償請求の民事訴訟を起こす時効は、不法行為の被害者が「犯行及び犯人を知ってから3年間」。
今回の場合、被疑者不明で告訴した時点では犯人を知らず訴えられないから、時効の起算点は検察が起訴して裁判所が事件記録を開示できる時点からになるのかな。
判決が確定して事件が終結した時点からかもしれないが、略式なので二週間しか差は無いからほぼ同じ。

著作権侵害の加害者に民事訴訟をした事例はACCSの発表でいくつかあるが、全国一斉集中取締りの被摘発者関係の情報はネットに無い。
訴えても著作権者が発表せず報道されてないだけなのか、見せしめが目的なので民事提訴までやってないのか、どちらなのか不明。

ファイル共有ソフトでアップロード「可能な状態」にしたことによる送信可能化権侵害の損害賠償で裁判所がいくら認めるのか。(俺が一次アップロードしたファイルは一つもなく、全てshareで落してそのまま共有フォルダに入れたものなので、俺がアップロードした実際のデータ量がどれだけになるのか、誰にもわからんと思う)

これから3年間はいつ訴えられるかもとビクビクしながら過ごすことになる。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その28- 〈失ったもの、得たもの

今回の摘発で失ったもの

  • 会社での将来の出世の可能性
    今後実績を上げたとしても処分経歴が足をひっぱるだろうし、配属先も冷遇されるだろう。

  • 妻と両親からの信用
    今でも妻との関係は良好だが、パソコン関係の話題になるとたまに「今度捕まったら離婚だよ」とチクリと刺されて心が痛い。

  • この1年間の精神的安定
    送検されるまでいつ逮捕されるかもと不安で、会社の処分が決まるまではクビになるかもと不安で、仕事に集中できんかった。
    妻や両親にも多大な心配をかけてしまった。

  • 弁護士費用と罰金あわせて140万円
    これまでダウンロードしたマンガを全部購入したとしても余る金額。犯罪はワリに合わないと痛感した。

  • 外国への入国の自由
    ビザ無し入国が認められている国でも、前科があると入国許可が必要になる。


得られたもの

  • 刑事事件の手続きや刑事訴訟法の知識
    ほぼネットで調べたのでこんな状況に陥らなくても調べられたんだけど、やっぱり自分の事となると頭に入る。
    弁護士は基礎的な法的知識は教えてくれなかった。聞いたら教えてくれたんだろうけど。

  • 「前科者」「犯罪者」という立場に容易に転落し得るんだという認識と用心深さ
    あれ以来、法を意識して日常で行動するようになった。俺と同じように摘発された人や前科者への偏見がなくなった。


犯罪なんて縁遠い存在だとみんな思ってるだろうけど、
画像掲示板に他人のイラストや写真を貼り付けたり、youtubeにあるテレビ番組やIVやPVをHDDにファイル保存(ダウンロード)したら俺と同じ著作権法違反なんだぜ。
外国から輸入された(技的マークがない)無線マウスや無線キーボードやbluetooth付きノートPCを使ったら、無線局の無許可開局で電波法違反だぜ。
メートルとインチが併記された物差しを他人に売ったら、計量法違反で罰金50万円以下のれっきとした犯罪だぜ。

かように、刑事罰の設定された法律を犯す状況は世の中にたくさんある。摘発されないのはたまたま警察が見逃してるだけだ。
  日常生活の中で自分のどういう行動が法に触れそうなのか意識して行動するようになった。


そういえば俺のスマホ個人輸入SIMフリースマホだった。技適マークがない、電波法違反。
押収されたときはSIMカードを刺してなくて、家庭内WIFIでしか使ってないからおとがめ無しだったのか。技適マーク無しのWIFIbluetoothも電波法違反なんだけど、世の中には溢れるほどあるし、摘発したらキリがないか。
担当した刑事は県警本部と所轄署の生活安全課所属で電波法も所管してるから、気付かなかったってことはないだろう。たぶん。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その27- 〈会社の処分

判決から1週間後に人事課長から呼び出されて事情(本人弁明)を聞かれた。
人事課長は別の課で元上司だった人で、「君とはこんな形で再会したくなかったよ」と言われ心にグサッときた。

1ヶ月後に部長室に呼び出された。
部長室に入ると、正面に部長。上司と人事課長が横に立つ。
緊張で直立不動になる。喉が渇く。

「厳重注意。あなたは私生活において法に触れる行為を行い・・・ 反省し、以後二度とこのようなことがないように。」
部長からの厳重注意処分となった。

減給・出勤停止でも仕方ない、クビもあり得ると覚悟してたので、思ったより軽かった。クビにならなくてよかった。
会社に発覚する前に自分から報告したのが良かったみたい。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その26- 〈判決〉

罰金額はいくらになるだろう。
略式手続だから100万円を超える事は無く、審理がないから検事の求刑=判決となる。
ネットで見た判例だと50万の事件もあれば100万の事件もあり、今回立件されたのは5冊分なので大きくはないが、検事が余罪部分をどう考えているかで違ってくる。(起訴されてない余罪を量刑に直接反映させるのは違憲なので5冊分で判断されるはずだけど)
スピード違反と違って事例が少ないから予想が難しい。


12月初旬、不在通知が入っていた。郵便種別「特別送達」。来た・・・
再配達で受け取る。封筒に簡易裁判所の文字。
緊張しながら封筒を開ける。

略 式 命 令

主     文

被告人を罰金 50万円に処する。

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終わった。
摘発されてから10ヶ月、決着がついた。
弁護士費用が着手金30万+報酬60万で90万円、罰金50万円で計140万円。
今後の人生への影響、プライスレス。

弁護士事務所に行きお礼と報告。
年配刑事にも電話して報告。

翌日に課長に命令書をコピーして提出。
「こんなに罰金とられるんだ。大きいね。」と驚いていた。
処分、重くなるかな・・・
「素直に罰金を払って刑事の処罰を受けてるので、社内の罰は重くしない」
という方向になったらいいな。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その25- 〈押収品返還、弁護士報酬〉

検事取調べの翌日、××警察署の刑事から電話がきた。
押収品を返還するので受取りに来てほしいとのこと。なるべく妻も一緒に来るようにと。
夕方6時に約束。

仕事から帰って妻と一緒に車で警察署に。
生活安全課の相談室で待っていると、刑事が大きな段ボール箱をかかえてやってきた。
蓋には「堀内幸雄 3月○日」と書かれたシールと指印。そうか、あれからもう8ヶ月も経ったか。あっという間だったな。

封印を解除して中にあるパソコンを確認。
刑事がもってきた白紙に「本日11月○日に還付を受けたパソコンについて、中にある違法なファイルは全て消去します。 堀内幸雄」と書いて押印。その下に妻が立会人として記名押印。
スマホ還付のときは刑事の目の前でマンガファイルを全て消去して消去後の写真まで撮ってたのに、送致しちゃうと扱いが変わるんだな。

家に持ち帰ったパソコンは、しばらく手をつけるのも嫌で部屋の片隅に放置していたが、中身をそのままにしておくわけにはいかんとケーブルを接続して起動し、(10ヶ月ぶりにshareのショートカットアイコンを見た瞬間に吐き気が襲ったぜ)shareのプログラムや落したファイルを全部消した。

検事調べの3日後、弁護士事務所から報酬分の請求書が届いた。まだ判決文が来てないのに気が早い。
成功報酬額は契約にて、懲役実刑ならゼロ・執行猶予付き懲役なら30万・罰金刑なら60万・不起訴なら90万としていた。
略式罰金となったので60万円の請求があり、ATMで振り込んだ。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その24- 〈検事調べ-2〉

検「警察での調書を読みましたが、そこで述べた内容の通りですか?」
俺「はい。」
検「shareのログ写真を見ると直近のIP取得が家宅捜索の3日前になってるけど、その日からの稼働で間違いない?」
俺「(そういえばそこは警察では聞かれなかったな)もう半年以上前なのでよく覚えていませんが、ログがそうなっているならそれで間違いないと思います。」

と3問くらいの質問を終えると、検事が
「私が警察で話した内容に間違いはありません。最後にshareを起動したのはよく覚えていませんが、ログ画面によれば2月○日の○時○分・・・。反省しており二度としません。」と口述して、それを横にいる事務官がすごい勢いでタイピングする。
検事が話し終えると同時に検面調書がプリントアウトされ、検事が読みながら示した文面を確認すると誤字脱字は一つもなく、調書はきちんと文章になっていて、検事の口頭で文面を作る能力と、検察事務官の超速タイピング能力に感心した。

内容に相違ないので署名し印鑑を押す。
そう、警察では証拠物の封印から調書まですべて黒インクで指印を押していたが、検察では朱肉で印鑑を押すよう言われたのだった。

検「堀内さんは初犯で、素直に罪を認めており、取調べでの態度も真面目でしたが、処分無しというわけにはいかず、罰金刑を考えています。弁護士さんから聞いてるかと思いますが、堀内さんに異議がなければ略式手続きを考えています。略式処分についてはご存じですか?」
俺「はい、知っています。略式でお願いします。」
検「念のため説明します・・・・以上、異議がなければ略式手続きに同意する旨、こちらの書面に署名押印してください。」
略式請書に署名押印する。
検「これで検察での取調べは終わりです。お疲れ様でした。」
俺「失礼します。」

半日かかるだろうと午後いっぱい有給休暇を取っていたが、30分で終わった。
用意していた謝罪文や職場への申告書のコピーは全く求められることはなく、淡々と流れ作業的に終わった。

検察庁から外に出てから「あ、そういえば求刑額を聞くの忘れた」「押収品(パソコン)の返却をお願いするの忘れた」と気づいたが、戻って聞くわけにもいかんし仕方ない、待とう。

まだ不安があって、検察内部の決裁で罰金求刑がハネられ正式起訴されるとか、裁判所が略式は不適切だと判断して正式公判にするよう差し戻すとか(滅多にないらしいけど)・・・
の可能性もあって完全には安心できないが、とりあえず一区切りついた。