ファイル共有ソフトで前科者になった

shareで漫画をアップして摘発され前科者になったので、体験したことを書いてく

ファイル共有ソフトで前科者になった -その3- 〈家宅捜索2〉

「堀内さんはここに」という若手刑事の指示に従い俺は玄関前の廊下に立ち、最初の二人の刑事に続いて、後続の車から四人の若手捜査員が降りてゾロゾロと入ってきた。マンガで「ドヤドヤ」と効果音がつきそうな光景。俺は廊下に立ってそれを見るだけだ。

若手の刑事にリビングに入るように言われ、指示のまま動く。
すぐに後続の四人がリビングを捜索しはじめた。
最初の刑事二人は背広姿だが、後続の四人はTシャツ、ジーパン、作業着といったラフな格好で、そこらへんにいそうな若者のようで、刑事には見えない。

自分の家の中に自分の意思と関係なく赤の他人が入ってきて、あちこちの扉を開けられ引き出しを開けられ中の物を取り出され隅々まで見られるというのは、非常に屈辱的で情けないが、向こうは法律に従って動いてるのでどうしようもない。邪魔したら公務執行妨害で罪を重ねるだけだ。
たまたまこの時、妻が数泊の旅行に行ってて家にいなくてよかった。こんな情けなくみっともない状況を妻に体験させなくて済んだのは不幸中の幸いだ。

若手刑事から俺の居室はどこかと聞かれ案内すると、リビングに二人残したまま二人の捜査員が捜索を始めた。
このとき、パソコンは数日前から起動中で、まさにshareも稼働中だった。
刑事がモニターの電源を入れるとshareのウィンドウが表示された。shareでダウンロードしたマンガは、キャッシュではなくアップロードフォルダに入れて共有しており、この状況で言い逃れなどできず、素直に認めるしかなかった。(後述するが、この諦めからきた素直さは逮捕されないことにつながったかもしれず、かえって俺にとっては良かったかもしれない。)
刑事から聞かれるがままにフォルダの場所や内容を答えていく。
刑事がデジカメを取り出し、共有フォルダ画面や稼働ログ画面を撮影していく。
刑事の指示でパソコンの横に立ちモニターを指差すと、その俺が入るよう引きで写真を撮られる。まさに「容疑者」で、とても情けない。

光ファイバーCTUからルーターまでのLANケーブルの配線も聞かれ答えると、それも指差すよう言われ、その姿勢のまま固まって写真を撮られた。
目線のやり場に困る。カメラを見ろという指示は無かったので、うつむいていた。とてもしょぼくれた表情が写ってるんだろう。

2階には寝室や妻の居室があると説明し、容疑のファイル共有ソフトは自分だけが使っていて、妻はリビングに置いてあるノートパソコンしか使ってないと説明したが、2人の捜査員が階段を上がっていき、妻の部屋と寝室も捜索されたようだ。
俺のせいで妻のプライバシーが暴かれてしまい、とても情けない。

share稼働状況の撮影が終わると刑事がパソコンの電源を落とした。パソコンから延びてるケーブルの外し方を説明すると、捜査員二人がかりでパソコンを大きな段ボール箱に入れ(タワー型だが、段ボールの高さギリギリだった。入りきらなかったらどうしたんだろう?)ガムテープで口を閉じたあと、ガムテープの上に白紙のシールを貼り、俺が日付と名前を書きシールに黒インクで指印を押して封印した。封印を指差すよう言われ、また写真を撮られた。

俺は最初から最後まで立ったまま刑事から聞かれたことを説明するだけで、パソコン(に限らず家の中の物すべて)に一切触らなかった。証拠隠滅を防ぐためだろう。
よく掲示板の雑談で「何かあったときのために、ワンクリックでPC内のデータ全消去するソフトがあるといいな」なんて書き込みを見るけど、家にやってくるとき彼らは「警察です」なんて自己紹介しないし、こっちは誰か来て名前を呼ばれても警察だなんて思わないし、玄関に出たら令状を提示されて、そこからは刑事の指示通りにしか動けないから、意味ないな。
パソコンを操作しようとしたら刑事は必死に止めるだろうし、その状態で刑事の体に触れたら公務執行妨害で現行犯逮捕だ。(ただ、自身の犯罪に係る証拠隠滅は罪にならないらしい。情状は悪くなるだろうけど。)

ファイル共有ソフトで前科者になった -その2- 〈家宅捜索1〉

2月某日(平日)
いつものように朝7時に起きて、7時半ごろ、朝食前に毎日の日課として庭の草木の成長を見回ろうと玄関から庭に出た。
家の真ん前にバンが駐まっている。俺の家は住宅街の中で、見知らぬ車が家の周辺に駐まることは滅多にない。
『なんだろう、怪しい車だな。動く様子はなさそうだ。いつまで駐まってるんだ?』
といぶかしみ、車を『俺はお前を警戒しているぞ』アピールを込めてジロジロ見る。中は暗いので良く見えないが、運転席と助手席にいる二人の男が俺を見て何かを話しているのはわかった。

車が動く様子はなさそうだ。
眼力で車を去らせることはあきらめ、庭の目につく雑草を腰をかがめてブチブチ抜いていく。
車の二人が降りてきた。二人ともスーツ姿で、20代後半くらいの若い男と、白髪まじりで50代くらいの男。

年長のほうが、門の向こうから声をかけてきた。
「堀内○○さんですか?」
「はい」
「私、警察の者です」
 と警察手帳を示している。刑事だ。『何か周辺で事件があって聞き込みに来たのかな?』と思う。
「堀内さんに、著作権法違反の容疑で家宅捜索令状が出ています。中に入れてください。」

ぐわんと、世界が揺れる。
全身の血管がキュッと縮まって全身がヒヤッと冷たくなる感覚で、まさに”サーと血の気が引く”状態。
彼らから見たら、俺はよろけてたかもしれない。

著作権法違反と聞いた瞬間に「shareのことだな」とわかった。自分のしていることはわかってた。
裁判所の令状がある以上、何も抵抗はできない。
俺が門を開けて二人が玄関前に立つと、年長の刑事が携帯電話をかけ、近くで待機していたらしいもう1台の車がやってきた。
おそらく2台そろってから俺を呼び出す予定が、俺が先に外に出て車を怪訝な目で見てたので、家の中に戻られる前に急いで声をかけてきたんだろう。

そのまま玄関のドアを開け二人を玄関に入れると、年長の刑事が家宅捜索令状を提示して読み上げた。
頭に血が登ってるような思考能力の低下した頭でぼーっとそれを聞きながら
『そうか、来たか。こうなった以上は仕方ない。』
と全て受け入れたような、投げやりのような、諦めの思いでいっぱいになる。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その1- 〈前記〉

去年、ファイル共有ソフト「share」を使ったことで警察から著作権法違反として家宅捜索を受け摘発され、刑事罰を受けて前科者になった。
「よほど運が悪くないと摘発なんてされないよ」という意識(以前の俺)で著作物をアップしてる人への警鐘、これから先に摘発される人の参考になるかもしれんので、体験を書いてく。
自分のスペックは、30代男、事務職サラリーマン、既婚で子無し。
もう刑事事件としては終了しているが、身バレすると恥ずかしいので細かい部分を一部改変し、名前も仮名「堀内」とさせてもらう。

ファイル共有ソフトで著作物をアップするのは違法だと知っていて、定期的にアップロード者が摘発されているのも知っていたが、「国内のファイル共有ユーザーのノード数15万人」という情報も知っていて、「摘発されるのは宝くじに当たるような確率だろう。よっぽど運が悪い数人が見せしめ的に捕まってるだけだ」と高をくくっていた。
たまにニュースサイトで目にする摘発事例を見て「アニメやゲームや商用ソフトは危ないが、画像なら大丈夫だろう」と、大量のマンガデータを共有フォルダに入れていた。(実は既にマンガアップロードでの摘発事例は多数あったのだが、知らなかった。)

以前の俺の甘々な認識として、人様から批判されるのを承知で戒めとして書くと、
「○○○ちゃんねるのような画像掲示板に貼られてる絵だって違法アップロードには違いないが摘発なんてされてない。マンガ一冊丸々アップしたって同じだ」と思ってたり、
「直接に他人の持ってる金銭や財産を盗むわけではなく、有料なら買わないけど無料なら落そうという仲間同士でやりとりしてるだけで、他人の商売の邪魔をしているわけではない」
という「違法ではあるけど犯罪として扱われるほど悪質なことではない」と思っていた。
もちろんそれは大間違いだったわけだが。