ファイル共有ソフトで前科者になった

shareで漫画をアップして摘発され前科者になったので、体験したことを書いてく

ファイル共有ソフトで前科者になった -その6- 〈家宅捜索後2 ・逮捕の恐れ〉

いろんな刑事事件のページを見ると、「最初は逮捕せず在宅捜査で進め、容疑が固まり次第、任意出頭後に警察署内で逮捕状を執行」という事例も多い。
ACCSの資料でも、家宅捜索日と逮捕日が異なってる事件がいくつかある。

法律では逮捕の要件として、容疑者に「証拠隠滅の恐れ」「逃亡の恐れ」がある場合に限定されているが、その「恐れ」に根拠は必要なくて「警察がそう思った」程度のものでよく、警察から逮捕令状を請求された簡易裁判所は実質審査無しでほぼ確実に逮捕状を出すようだ。
俺はサラリーマンで家庭もあるので客観的に見て「逃亡の恐れ」は低いし(無職・独身だと「守るべきものがない」ということで「相対的に逃亡の恐れが高い」と判断されるようだ)、
証拠物のパソコンを押収されているので「証拠隠滅の恐れ」は皆無で、
家宅捜索のときに容疑事実を認めており否認事件ではないからその場で逮捕はされなかったのだろう。
(警察は「容疑を否認している=証拠隠滅の恐れ有り」と考えており、否認すると途端に逮捕される可能性がグッと高くなるようで、弁護士会や人権団体からは「自白を得るための人質司法」と批判されているようだ)

最近、警察が逮捕の必要無しと判断して在宅捜査で進めてたのに、警察からの呼び出しをブッチして逮捕されたという報道もあった。

ドローン無許可飛行の疑いで男逮捕
警察は任意で調べを進めてきましたが、ことしの1月末以降、呼び出しに応じなくなったため3日、逮捕しました。

(そんな悪質な行為ではないので、律儀に出頭に応じてたら逮捕されなかっただろうに・・・)
俺は出頭には真面目に応じるつもりだが、それでも他の事例を見てると、いずれ逮捕される可能性は非常に高いと思う。

逮捕されて留置所に入れられれば、外部と連絡が取れなくなる。(手紙は検閲のうえ許されるようだが、時間がかかりすぎて有用ではない。)
となると、被害者(出版社と作者)への謝罪・示談交渉は不可能になる。妻や両親との面会には時間・回数に制限がつく。
自分の選任した弁護士であれば面会に制限はなく、弁護士が来ればどんな時間に何度でも面会できる。勾留への準抗告や保釈請求も弁護士でないとできない。
逮捕後の連絡手段の確保として、弁護人の選任は必須だと判断した。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その5- 〈家宅捜索後1・情報収集〉

これまで生きてて容疑者になったことはなく、どうすればいいのかわからないので、まずは過去の同様の事件や、刑事事件の流れを調べてみる。
ルーターと妻のノートパソコンが押収されなかったのは幸いだった。ノートを立ち上げファイル共有ソフトの摘発事例を検索する。

ACCS著作権協会)サイトのニュースリリースを見ると、2011年から毎年2月に全国の県警がファイル共有ソフトの一斉集中取締をしているようだ。

2011
http://www2.accsjp.or.jp/criminal/2010/1028.php
2012
http://www2.accsjp.or.jp/criminal/2011/1167.php
2013
http://www2.accsjp.or.jp/criminal/2012/1207.php
2014
http://www2.accsjp.or.jp/criminal/2013/1138.php
2015
http://www2.accsjp.or.jp/criminal/2014/1160.php
2016
http://www2.accsjp.or.jp/criminal/2015/1187.php

俺が受けたのはこの全国取締りの一環で、他の都道府県でも同じように家宅捜索を受けてる同類が一県一人ずついるんだろう。
俺と同じようにマンガを共有していて、摘発当日に逮捕されてる人もいる。そうか、マンガでも捕まってたのか。アニメ・ゲーム・商用ソフトだけかと思ってた。知識不足だったな。

遠隔地の県警に逮捕・連行・勾留されている事件も多い。
上のACCSの発表事例で、2011に沖縄県警が大阪府民を、2012に大阪府警北海道民を、2013に福岡県警が千葉県民を、2014に群馬県警徳島県民、福岡県警が神奈川県民を逮捕している。
ネット犯は容疑者の住所地と関係なく、事件を認知した県警が逮捕連行して捜査を進めるようだ。(2015以降は住所地と摘発県警が一致してる事件ばかりなので、扱いが変わったのかもしれない)
新幹線や飛行機で連行される間は手錠でつながれて見せ物となり、家族が留置所に来て面会するのも難しくなるだろう。地元の県警署に摘発された俺は不幸中の幸いだった。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その4- 〈家宅捜索3〉

年配刑事から「仕事は大丈夫?連絡してもいいよ。今日は一日出勤できないからね」と言われ、携帯電話で会社の上司に「どうしても外せない急用が発生したので今日一日休みます」と伝えた。
逮捕されてしまうと外部との連絡は一切許されず、家族や職場からは失踪したかのように思われると聞いていたが、この段階ならいいのか。

妻はどうしたのか聞かれたので、一人で旅行中と答えた。刑事はなんて言ってたかな。

リビングに置いてある妻のノートパソコンには俺のアカウントもあり、若手刑事から妻のアカウントのパスワードを聞かれたが知らないので「妻のパソコンなので知らない」と答えた。
俺のアカウントでログインして中身チェックされ、(簡単な調べ物でしか使ってないので)違法なものは入って無いのを確認すると、押収はされなかった。アカウント名とアイコンを、それぞれの名前と写真にしててわかりやすかったのが良かったんだろう。

「裸族のお立ち台」と数個の内蔵HDDがパソコンのそばに裸で置いてあり、録画したテレビ番組のTSファイルとか自分で撮影した動画写真のバックアップが入ってて、マジックで「BackUp」とか「ビデオキャプチャ」と書いてあり、刑事から「このHDDには何が入ってるの?」と聞かれてその通り答えると、「本当にそうなんだね?」「そうです」で終わりで、中身チェックや押収は無かった。同じくバックアップのBD-Rもスルーだった。

よくパソコン関係の犯罪がテレビで報道されるとき、カメラの前で「○○被疑事件 押収物一覧」の垂れ幕の下にずらっとパソコン本体、液晶モニタ、ブランクメディア、キーボードやマウスまで、おおよそパソコンに関係するもの(関係なさそうなフィギュアまで)一切合切押収されて公開されてる画像を見てたし、
反戦団体の事務所が微罪で家宅捜索され、容疑と無関係の靴箱にある靴を全て持って行かれて外に出られなくなった。」なんて事が過去にあるのを知ってたので、
俺もそうやってパソコンに関係するもの全て押収されると思ってたものだから、意外だった。

パソコンの押収中にも年配刑事と残り二人の捜査員は家中の捜索を続け、年配刑事が引き出しにあった俺の預金通帳をめくって中身チェックして他に通帳は無いのかと聞いてきたが、特に興味を引く取引履歴は無かったようだ。
ダウンロードした著作物を販売してないか疑ってるのかもしれないと思い、(俺は落したファイルは自分で読むだけなので)売ってないことを証明したくて俺のほうから「ヤフーオークションのアカウントがありますんで、ログインして確認しますか?」聞いたが、結構ですとの返事だった。

フルメタルの電動ガン(長物なので合法)が室内にゴロンと置いてあったが、何も聞かれなかった。箱に「新銃刀法規制適合品 0.98J」と書いてあったのが良かったか。

パソコン本体の他に、携帯電話(ガラケー)とスマホ(SIM無しの家庭内wi-fi専用)とインターネットの光ファイバー回線の契約書を押収された。
年配刑事が押収品目録交付書を書き、カーボンコピーの写しを渡され、余白の斜め線などに拇印を押した。
家宅捜索はもっと有無を言わさず、室内のものをひっかきまわしてグチャグチャにされると思ってたが、刑事の言葉遣いは普通で淡々と進み、押収品以外は元の場所に戻されていた。

最後に年配の刑事と一緒に家の外に出てぐるっと一周し、庭にあるプレハブ倉庫や園芸箱の中を見せて説明して、何も違法な物がないのを確認して終わり。

捜索が終わり逮捕されるかと覚悟したが、年配刑事から「捜索はこれで終わりです。午後2時に××警察署(最寄りの署)の生活安全課に来てください。」と言われ、六人がドヤドヤと出て行き、一人家に残された。
この時点で10時半。捜索が始まってからあっという間に3時間経っていた。

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ファイル共有ソフトで前科者になった -その3- 〈家宅捜索2〉

「堀内さんはここに」という若手刑事の指示に従い俺は玄関前の廊下に立ち、最初の二人の刑事に続いて、後続の車から四人の若手捜査員が降りてゾロゾロと入ってきた。マンガで「ドヤドヤ」と効果音がつきそうな光景。俺は廊下に立ってそれを見るだけだ。

若手の刑事にリビングに入るように言われ、指示のまま動く。
すぐに後続の四人がリビングを捜索しはじめた。
最初の刑事二人は背広姿だが、後続の四人はTシャツ、ジーパン、作業着といったラフな格好で、そこらへんにいそうな若者のようで、刑事には見えない。

自分の家の中に自分の意思と関係なく赤の他人が入ってきて、あちこちの扉を開けられ引き出しを開けられ中の物を取り出され隅々まで見られるというのは、非常に屈辱的で情けないが、向こうは法律に従って動いてるのでどうしようもない。邪魔したら公務執行妨害で罪を重ねるだけだ。
たまたまこの時、妻が数泊の旅行に行ってて家にいなくてよかった。こんな情けなくみっともない状況を妻に体験させなくて済んだのは不幸中の幸いだ。

若手刑事から俺の居室はどこかと聞かれ案内すると、リビングに二人残したまま二人の捜査員が捜索を始めた。
このとき、パソコンは数日前から起動中で、まさにshareも稼働中だった。
刑事がモニターの電源を入れるとshareのウィンドウが表示された。shareでダウンロードしたマンガは、キャッシュではなくアップロードフォルダに入れて共有しており、この状況で言い逃れなどできず、素直に認めるしかなかった。(後述するが、この諦めからきた素直さは逮捕されないことにつながったかもしれず、かえって俺にとっては良かったかもしれない。)
刑事から聞かれるがままにフォルダの場所や内容を答えていく。
刑事がデジカメを取り出し、共有フォルダ画面や稼働ログ画面を撮影していく。
刑事の指示でパソコンの横に立ちモニターを指差すと、その俺が入るよう引きで写真を撮られる。まさに「容疑者」で、とても情けない。

光ファイバーCTUからルーターまでのLANケーブルの配線も聞かれ答えると、それも指差すよう言われ、その姿勢のまま固まって写真を撮られた。
目線のやり場に困る。カメラを見ろという指示は無かったので、うつむいていた。とてもしょぼくれた表情が写ってるんだろう。

2階には寝室や妻の居室があると説明し、容疑のファイル共有ソフトは自分だけが使っていて、妻はリビングに置いてあるノートパソコンしか使ってないと説明したが、2人の捜査員が階段を上がっていき、妻の部屋と寝室も捜索されたようだ。
俺のせいで妻のプライバシーが暴かれてしまい、とても情けない。

share稼働状況の撮影が終わると刑事がパソコンの電源を落とした。パソコンから延びてるケーブルの外し方を説明すると、捜査員二人がかりでパソコンを大きな段ボール箱に入れ(タワー型だが、段ボールの高さギリギリだった。入りきらなかったらどうしたんだろう?)ガムテープで口を閉じたあと、ガムテープの上に白紙のシールを貼り、俺が日付と名前を書きシールに黒インクで指印を押して封印した。封印を指差すよう言われ、また写真を撮られた。

俺は最初から最後まで立ったまま刑事から聞かれたことを説明するだけで、パソコン(に限らず家の中の物すべて)に一切触らなかった。証拠隠滅を防ぐためだろう。
よく掲示板の雑談で「何かあったときのために、ワンクリックでPC内のデータ全消去するソフトがあるといいな」なんて書き込みを見るけど、家にやってくるとき彼らは「警察です」なんて自己紹介しないし、こっちは誰か来て名前を呼ばれても警察だなんて思わないし、玄関に出たら令状を提示されて、そこからは刑事の指示通りにしか動けないから、意味ないな。
パソコンを操作しようとしたら刑事は必死に止めるだろうし、その状態で刑事の体に触れたら公務執行妨害で現行犯逮捕だ。(ただ、自身の犯罪に係る証拠隠滅は罪にならないらしい。情状は悪くなるだろうけど。)

ファイル共有ソフトで前科者になった -その2- 〈家宅捜索1〉

2月某日(平日)
いつものように朝7時に起きて、7時半ごろ、朝食前に毎日の日課として庭の草木の成長を見回ろうと玄関から庭に出た。
家の真ん前にバンが駐まっている。俺の家は住宅街の中で、見知らぬ車が家の周辺に駐まることは滅多にない。
『なんだろう、怪しい車だな。動く様子はなさそうだ。いつまで駐まってるんだ?』
といぶかしみ、車を『俺はお前を警戒しているぞ』アピールを込めてジロジロ見る。中は暗いので良く見えないが、運転席と助手席にいる二人の男が俺を見て何かを話しているのはわかった。

車が動く様子はなさそうだ。
眼力で車を去らせることはあきらめ、庭の目につく雑草を腰をかがめてブチブチ抜いていく。
車の二人が降りてきた。二人ともスーツ姿で、20代後半くらいの若い男と、白髪まじりで50代くらいの男。

年長のほうが、門の向こうから声をかけてきた。
「堀内○○さんですか?」
「はい」
「私、警察の者です」
 と警察手帳を示している。刑事だ。『何か周辺で事件があって聞き込みに来たのかな?』と思う。
「堀内さんに、著作権法違反の容疑で家宅捜索令状が出ています。中に入れてください。」

ぐわんと、世界が揺れる。
全身の血管がキュッと縮まって全身がヒヤッと冷たくなる感覚で、まさに”サーと血の気が引く”状態。
彼らから見たら、俺はよろけてたかもしれない。

著作権法違反と聞いた瞬間に「shareのことだな」とわかった。自分のしていることはわかってた。
裁判所の令状がある以上、何も抵抗はできない。
俺が門を開けて二人が玄関前に立つと、年長の刑事が携帯電話をかけ、近くで待機していたらしいもう1台の車がやってきた。
おそらく2台そろってから俺を呼び出す予定が、俺が先に外に出て車を怪訝な目で見てたので、家の中に戻られる前に急いで声をかけてきたんだろう。

そのまま玄関のドアを開け二人を玄関に入れると、年長の刑事が家宅捜索令状を提示して読み上げた。
頭に血が登ってるような思考能力の低下した頭でぼーっとそれを聞きながら
『そうか、来たか。こうなった以上は仕方ない。』
と全て受け入れたような、投げやりのような、諦めの思いでいっぱいになる。

ファイル共有ソフトで前科者になった -その1- 〈前記〉

去年、ファイル共有ソフト「share」を使ったことで警察から著作権法違反として家宅捜索を受け摘発され、刑事罰を受けて前科者になった。
「よほど運が悪くないと摘発なんてされないよ」という意識(以前の俺)で著作物をアップしてる人への警鐘、これから先に摘発される人の参考になるかもしれんので、体験を書いてく。
自分のスペックは、30代男、事務職サラリーマン、既婚で子無し。
もう刑事事件としては終了しているが、身バレすると恥ずかしいので細かい部分を一部改変し、名前も仮名「堀内」とさせてもらう。

ファイル共有ソフトで著作物をアップするのは違法だと知っていて、定期的にアップロード者が摘発されているのも知っていたが、「国内のファイル共有ユーザーのノード数15万人」という情報も知っていて、「摘発されるのは宝くじに当たるような確率だろう。よっぽど運が悪い数人が見せしめ的に捕まってるだけだ」と高をくくっていた。
たまにニュースサイトで目にする摘発事例を見て「アニメやゲームや商用ソフトは危ないが、画像なら大丈夫だろう」と、大量のマンガデータを共有フォルダに入れていた。(実は既にマンガアップロードでの摘発事例は多数あったのだが、知らなかった。)

以前の俺の甘々な認識として、人様から批判されるのを承知で戒めとして書くと、
「○○○ちゃんねるのような画像掲示板に貼られてる絵だって違法アップロードには違いないが摘発なんてされてない。マンガ一冊丸々アップしたって同じだ」と思ってたり、
「直接に他人の持ってる金銭や財産を盗むわけではなく、有料なら買わないけど無料なら落そうという仲間同士でやりとりしてるだけで、他人の商売の邪魔をしているわけではない」
という「違法ではあるけど犯罪として扱われるほど悪質なことではない」と思っていた。
もちろんそれは大間違いだったわけだが。